注文住宅の耐震等級の選び方|メリット・デメリットを専門家が解説

2024.12.1.
- 注文住宅
この記事では、注文住宅の耐震等級の種類や特徴、耐震等級を高めるメリット・デメリット、耐震性能を高める具体的なポイントなどを解説します。注文住宅をご検討中の方は、ぜひ参考にしてみてください。
耐震等級を理解しよう
耐震等級とは住宅の耐震性能を3段階で評価する制度です。2000年の品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)で客観的な性能表示制度として定められ、等級1から等級3までの3段階で評価されます。
数値が大きいほど地震に強い家となり、建物の重さや耐力壁の量、バランス、床の強さなどの要素から総合的に判断されます。新築注文住宅の場合、耐震等級は建築前の設計段階で決定します。
等級1から等級3の内容を、具体的に紹介します。
耐震等級1:建築基準法レベルの最低基準
耐震等級1は、建築基準法で定められた最低限の耐震基準を満たすレベルです。震度5程度の地震では損壊せず、震度6強程度の大地震でも建物が即時に倒壊・崩壊しない強度を備えています。ただし、建物に部分的な損傷が発生する可能性はあります。
耐震等級2:長期優良住宅に求められる水準
耐震等級2は、耐震等級1の1.25倍の耐震性能を持つ住宅です。震度6強から震度7クラスの大地震に見舞われても、建物の損傷を比較的軽微に抑えられます。この等級は長期優良住宅認定の必須要件となっており、将来にわたって安心して住み続けられる住宅として評価されます。
耐震等級3:最高水準の耐震性能
耐震等級3は、住宅の耐震等級において最高水準の性能で、耐震等級1の1.5倍という高い耐震性能を持ちます。災害時の避難所や復興拠点となる建物と同等の強度を備えており、家族の安全を守れるのはもちろん、災害後も継続して住み続けられるように設計されます。
耐震等級が高い家の特徴は?
耐震等級が高い家は、地震に対する強さを確保するために、さまざまな工夫が施されています。もっとも特徴的なのは、耐力壁の量と配置です。耐力壁とは、地震の力に耐える壁を指し、等級が上がるほど設置量が増え、バランスよく配置されます。
また、柱と土台、柱と梁をつなぐ接合部には、高性能な接合金物(ホールダウン金物など)が使用され、建物のズレや浮き上がりを防ぎます。壁の構造材には、構造用合板や筋かいなどの耐震部材が十分に使用されます。
さらに床組みには構造用合板を使用し、堅固な剛性(変形しにくい性能のこと)を確保していることも特徴です。これにより建物全体の変形を抑え、地震時の揺れに対する抵抗力を高めています。
建物全体の重量バランスにも配慮し、基礎には鉄筋を多く配置しています。これらの要素が組み合わさることで、地震の揺れに強い構造が実現されているのです。
注文住宅で耐震等級を高めるメリット・デメリット
注文住宅を建てるときに、最低限の基準である耐震等級1から、耐震等級2や3にするメリット・デメリットを解説します。
メリット
まずは、メリットから確認しましょう。
将来の地震リスクを軽減できる
地震による被害を最小限に抑えられるのが、耐震等級を高める最大のメリットです。大地震でも建物の損傷が少なく修繕費用を抑えられるだけでなく、家族の生命・財産を守り、避難所生活を強いられるリスクも減らせます。
建物の揺れが小さいため、家具の転倒やそれによるケガなども防ぎ安くなります。地震後も住み慣れた家で暮らし続けられる可能性が高く、災害時の生活の質を守れます。
住宅ローンの金利や住宅ローン控除の優遇を受けられる
耐震等級が高い住宅では、さまざまな住宅ローンの優遇を受けられます。たとえばフラット35Sでは、耐震等級などに応じて0.25%〜0.75%の金利引き下げが適用され、ほかの金融機関でも独自優遇金利の対象となるのが一般的です。
耐震等級2以上で長期優良住宅認定を受けると、住宅ローン控除の借入限度額も優遇されます。これらの優遇措置により、将来的な経済的負担を軽くできることも、耐震等級を高めるメリットです。
地震保険料が割引される
地震保険料は、耐震等級に応じて割引が受けられます。耐震等級3で最大50%、等級2では30%、等級1でも10%の保険料割引が適用されます。この割引は建物が存在する限り継続し、火災保険とセットで加入する場合も同様です。長期的に見ると、毎年の保険料負担が大きく軽減されるでしょう。
資産価値に影響する
地震への関心が高い日本においては、耐震等級が高いことは、将来の資産価値にも好影響を与えます。中古住宅として売却する際、住宅性能評価書で耐震性能を客観的に証明することで、高い評価を得やすくなるためです。
賃貸活用する場合も、耐震性能をアピールポイントにでき、入居者募集や家賃設定でも有利に働くことが期待できます。
デメリット
続いて、デメリットもチェックしておきましょう。
建築費用が高くなる
耐震等級は、高くすればするほど、建築にかかる費用が高くなるのがデメリットです。これは、次のような理由によります。
●構造計算がより複雑になる
●地盤・基礎を強化する必要がある
●柱や梁(はり)の本数が増える
●強度の高い壁、床材を採用する必要がある
●申請・審査費用がかかる
どれくらい高くなるかは住宅によりますが、一般的には耐震等級2は等級1よりも15〜20%、耐震等級3は等級1よりも20〜30%高くなるといわれています。
間取り設計で成約を受ける可能性がある
耐震等級を高めると、家の形状や間取りに一定の制約が生じます。とくに強度が弱くなりがちな大きな開口部(窓)の設置には制限があり、また耐力壁を適切に配置する必要があることから間取りの自由度が低下しがちです。
吹き抜けなどの開放的な空間づくりにも制約が出やすく、またL字やコの字といった複雑な形状の家は設計が難しくなります。2階の部屋の配置についても1階の耐力壁の位置に影響されるため、理想とする間取りの実現には、設計者との入念な打ち合わせが必要です。
工期が長くなる傾向がある
耐震等級を高めると、一般的な住宅と比べて工期が長くなります。
まず、構造計算や設計に通常よりも2~4週間ほど多くの時間がかかります。さらに、住宅性能評価の審査期間として約3週間が必要です。施工面でも、基礎工事も大掛かりになり、耐力壁や構造材の施工に時間を要するため工期が伸びます。
また、検査や確認作業の工程も増えるため、一般的な住宅と比べて1ヶ月~2ヶ月程度、全体の工期が長くなることを想定しておく必要があるでしょう。
費用を抑えて注文住宅の耐震性能を高めるポイント
ここでは、費用を抑えて住宅の耐震性能を高めるポイントを解説します。
地震に強い土地選びがもっとも重要
耐震性能というと建物そのものばかり気にしがちですが、もっとも重要なのは土地選びです。耐震性能を考えるうえで、もっとも重要なのは実は土地選びです。どれだけ頑丈な建物を建てても、軟弱な地盤では十分な耐震性を確保できません。
土地選びでは、過去の地震被害の歴史や地盤の性質を必ず確認することが重要です。地盤調査が済んだ土地を選ぶのもよいでしょう。エリアの土地事情に詳しい会社に土地選びから建築までを一貫して依頼するのもおすすめです。
シンプルな形状にする
建物の形状は、正方形や長方形のようにシンプルだと耐震性に有利です。2階建ての場合は総2階(2階の床面積が1階とほぼ同じ)が地震に強くなります。単純な形状は、地震の力が建物全体に均等に分散され、安定するためです。
逆に、部分2階やL字・コの字といった複雑な形状は、継ぎ目部分に地震の力が集中しやすく、損傷のリスクが高まります。
建物全体を軽くする
建物の重量も、耐震性に大きく影響します。建物が重いほど地震時に建物にかかる力は大きくなるため、できるだけ軽量な材料を選択することが重要です。とくに、建物の上部に使用する屋根材は、軽い材料を選ぶことで大きな効果が得られます。これは重心が下にくるほど、建物の安定性が増すためです。
外壁材についても、重量のあるタイル張りなどは必要最小限にとどめ、軽量な材料の使用を検討しましょう。
2階リビングを検討する
2階にリビングを設けることは、耐震性を高める効果的な方法の一つです。1階に個室を配置することで、2階を支える耐力壁を多く確保できることが理由です。
就寝時の安全性を考えても、寝室を1階に配置することで避難がしやすくなり、地震に対する備えとして有効な間取りとなります。2階リビングの家は、開放的な空間を実現しやすく、耐震性と快適な居住空間を両立できるといえるでしょう。
注文住宅の耐震等級はどう選ぶ?
一般社団法人 住宅性能評価・表示協会によると、2022年(令和4年)に住宅性能評価書を取得した新築住宅では、等級3を取得しているケースが97.3%でもっとも多くなっています。
ただし、これは住宅性能評価書を取得した住宅のデータであることに注意が必要です。住宅性能評価は任意の制度であり、とくに耐震等級1の住宅では、あえて評価書を取得しないケースも多いと考えられます。
なお、耐震等級1でも、建築基準法が求める最低限の耐震性は確保されています。ただし、建築基準法が求めるのはあくまで「命と財産を守る」ことであり、建物の損壊・倒壊を完全に防ぐものではない点は、よく理解しておきましょう。
耐震等級の選択は、地域特性や予算など、さまざまな要素を考慮して決める必要があります。とはいえ、2016年の熊本地震では、耐震等級の差が明確に現れました。耐震性を重視する場合は等級3を目指すのがおすすめです。
耐震等級・耐震性能でよくある質問
最後に、耐震等級や耐震等級でよくある質問とその回答を紹介します。
建売住宅は耐震性能が低いの?
近年、建売住宅でも耐震性能への関心が高まり、耐震等級2や3を取得した物件を積極的に販売する会社が増えています。そのため、そういった物件を選べば、耐震性能自体は注文住宅と変わらない水準の確保が可能です。
ただし、建売住宅は仕様や間取りがすでに決められており、自由な設計はできません。耐震性能と理想の住まいを両立させたい場合は、自由度の高い注文住宅がおすすめです。
耐震等級は後から上げることはできますか?
建築後であっても、耐震補強工事で耐震性を高めることは可能ですが、基礎や構造部分の大規模な改修が必要となり、費用対効果が見合いません。
そのため、耐震等級は新築時によく検討して決めることが重要です。後からの変更は現実的ではないことを理解しておきましょう。
耐震等級はどのタイミングで決めますか?
耐震等級は、土地購入前に決めておくのが理想的です。なぜなら、土地の地盤状況が建物の耐震性に大きく影響するためです。
軟弱地盤の場合、想定以上の地盤改良工事が必要になり、建築費用が大幅に増加するリスクもあります。土地選びの段階から耐震等級を考慮すれば、予算計画を立てやすくなるのもメリットです。
耐震性の高いハウスメーカーはどうやって選ぶの?
ハウスメーカー選びでは、各社が実施している耐震シミュレーションや振動実験の内容を確認することが重要です。また、過去の地震での被害状況データや、採用している構造工法、耐震技術への取り組みなども参考になります。
展示場や完成見学会で実際の施工事例を見るのもおすすめです。
まとめ
耐震等級は建物の安全性を左右する重要な要素ですが、その選択に絶対的な正解はありません。ただし、等級が高いほど地震に対する安全性が高まり、保険料の割引や住宅ローンの優遇など、経済的なメリットも大きくなります。
しかし、どんなに高い耐震等級を選んでも、地盤が悪ければ十分な効果は得られません。そのため、地震に強い土地選びこそが、もっとも重要なポイントとなります。土地選びから建築までを一貫して任せられる会社を選ぶと、地盤に応じた適切な耐震設計が可能になるのでおすすめです。
実際の施工内容や技術を理解するためには、ハウスメーカーが開催する耐震セミナーや建築中の現場見学会へも積極的に参加しましょう。たとえば、ポラスグループの「発見とちいえプラザ」では、土地探しから耐震性能まで、家づくりに関する相談を一貫してサポートしています。土地選びから慎重に検討し、後悔のない選択をするためにも、まずは気軽にご相談ください。
SUPERVISOR
監修者
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岩井 学 (いわい まなぶ)
宅地建物取引士