空き家売却の全体像|放置と手放すの間で、自分で判断できるようになるために

2026.7.24.

  • 不動産売却
誰も住まなくなった実家の鍵が、引き出しに入ったままになっている。庭の草は伸び、遠方であれば様子を見に行くだけで一日がかりです。空き家を相続したとき、最初に動くのは売却先を探すことではありません。売る・貸す・活用する・管理を続ける・制度で手放すという5つの道を並べ、ご自身の物件がどこに当てはまるかを見極めるところから始まります。そのうえで売却を選ぶなら、論点は「解体するか」「特例が使えるか」「いつまでに動くか」の3つに絞られます。本記事は、業者に任せる前に、ご自身で判断できる状態になるための地図です。

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「放置すると固定資産税が上がる」という情報を目にした方も多いはずです。ただ、この話には条件があり、すべての空き家に自動的に当てはまるわけではありません。どの段階で何が起きるのかを、制度に沿って整理します。

空き家対策の法律は2023年12月13日に改正法が施行され、従来の「特定空家等」に加えて「管理不全空家等」という区分が新たに設けられました。倒壊のおそれがあるなど、そのまま放置することが不適切な状態に至った空き家が、特定空家等にあたります。
一方の管理不全空家等は、そこまでの状態ではないものの、放置すれば特定空家等になるおそれがある空き家を指します。窓が割れたままになっている、草木が伸び放題になっているといった段階です。市区町村長は、どちらに対しても指導や勧告ができます。改正によって、行政が早い段階から関われるようになったと整理できます。

土地の上に住宅が建っていると、住宅用地特例によって固定資産税の課税標準が軽減されます。小規模住宅用地(200平方メートル以下の部分)は6分の1、それを超える部分(家屋の床面積の10倍まで)は3分の1です。この軽減は空き家というだけで外れるのではなく、勧告を受けた特定空家等・管理不全空家等の敷地が対象から除外されます。
ただし、外れる入口は勧告だけとは限りません。総務省の通知では、取り壊しを予定しているなど今後の居住の見込みがないと認められるときは、そもそも特例の対象となる住宅に該当しないとされています。軽減が外れれば負担は上がりますが、負担調整のしくみもあり、倍率がそのまま請求額に表れるとは限りません。

税負担より重くのしかかるのが、建物が引き起こす損害への責任です。屋根や外壁が飛んで隣家を傷つけた、庭木が越境して苦情が届いた、不法侵入があった——こうした事態で責任を問われるのは所有者です。火災については、原因や管理の状況によって判断が分かれますが、人の目が届かない建物ほど不安は残ります。
放置の代償を実感するには、年間コストを一度書き出してみるのが早道です。
・固定資産税・都市計画税
・火災保険料
・水道・電気の基本料金
・管理を業者に委託する場合の費用
・自分で見に行く場合の交通費と、往復に費やす時間
金額そのものより、これを何年払い続けるのかという掛け算のほうが、判断を動かします。遠方に住んでいるほど、交通費と一日がかりの往復が積み上がっていくものです。こうした負担を考えると、売却を検討するのは妥当な選択といってよいでしょう。

売ると決めたあとに待っているのが、「どう売るか」の選択です。空き家の売り方は大きく4つに整理でき、価格・期間・手間・向く物件がそれぞれ異なります。

建物に人が住める状態が残っているなら、中古住宅としてそのまま売り出せます。解体費用を先に負担せずに済み、買主が住宅ローンを利用しやすいため、検討する層が広がる場合があります。
向きにくいのは、築年数が古く、設備や内装の傷みが進んでいる場合です。買主は入居前のリフォーム費用を見込むことになり、その分だけ検討をためらいやすくなります。ただ、古いから売れないと決めつける前に、その地域で中古住宅がどう動いているかを確かめるのがおすすめです。

建物の価値をほとんど見込まず、土地を主体として売り出す方法です。買主は解体を前提に検討するため、価格は土地の相場から解体費用の見込み分を差し引いた水準に落ち着きやすくなります。
売主にとっての利点は、解体費用を先に払わずに済む身軽さです。手元の資金を減らさずに売り出せますし、買い手が付かないまま更地の状態で税負担だけが増える、という展開も避けられます。建物を残したまま探せるため、その家をそのまま使いたいという買主が現れる余地も残ります。また後の章で触れるとおり、この売り方は税の特例とも相性がよく、解体を買主に委ねながら控除を狙えるのもポイントです。

先に建物を取り壊し、更地の状態で売り出す方法です。買主にとっては土地の広さや形が見えやすく、どう使えるかを描きやすくなるのが利点です。古い建物が残っていることで敬遠されていた土地であれば、反応が変わることも少なくありません。
一方で、解体費用の負担が必要になります。加えて、更地にすれば住宅用地特例の対象から外れ、翌年度の固定資産税が上がることは、理解しておく必要があります。売れる見込みが読めないうちに壊してしまうと、税負担が重い状態で売却活動が長引くことも。いつ壊すかという判断は、後の章で扱います。

不動産会社が直接の買主となる方法です。買主を探す期間が要らないため早く現金化でき、契約不適合責任が免除される場合もあります。相続人が複数いて早く現金で分けたい、遠方で売却活動に時間をかけにくい、といった事情には合いやすい売り方です。
価格は、仲介で売却した場合より低くなる傾向があります。会社が再販を前提に買い取るため、その分が差し引かれるからです。また、どの物件でも買い取れるわけではなく、立地や権利関係によっては引き受けが難しい場合もある点は留意しておきましょう。

4つの方法に優劣はなく、物件の状態と売主の事情による向き不向きがあるだけです。価格を優先するか、期間を優先するか、手間を減らしたいか——どの軸を上に置くかで、答えは変わります。

売り方 価格の傾向 期間 売主の手間・負担 向きやすい物件
そのまま売る 建物の評価が乗る場合がある 買主次第で幅がある 解体費用は不要。内覧の対応がある 人が住める状態が残っている
古家付き土地 土地相場から解体費用分を引いた水準 買主次第で幅がある 解体費用を先に出さずに済む 建物は古いが、土地に需要がある
更地にして売る 更地相場に近い水準を狙える 買主次第で幅がある 解体費用の先払い。税負担が上がる 建物の傷みが大きく、接道に問題がない
買取 仲介より低くなる傾向 短い 内覧や売却活動がほぼない 早く現金化したい。遠方で手が回らない
ここで決めてしまう必要はありません。この後の章で解体の判断と税の要件を押さえてから戻ってくると、自分の物件がどの行に近いのかが見えてくるでしょう。

売却価格が、そのまま手元に入るわけではありません。諸費用と税が差し引かれ、空き家ならではの出費も加わります。費目を洗い出したうえで税の要点を絞り、最後に手取りという一つの数字へ収束させます。

売却で動くお金は、売買代金だけではありません。仲介手数料、売買契約書に貼る印紙税、登記にかかる費用が、それぞれ別のタイミングで出ていきます。登記費用は一括りにされがちですが、負担する人は同じではありません。

費目 主な負担者 発生するタイミング
仲介手数料 売主 売買契約時・引き渡し時に分けて支払う形が一般的
印紙税 売主・買主がそれぞれの契約書分を負担 売買契約時
抵当権抹消の登記費用 売主 引き渡し・決済時
相続登記の費用 売主(相続人) 売り出す前
所有権移転の登記費用 買主(取引慣行として) 引き渡し・決済時
譲渡所得税・住民税 売主 売った年の翌年の確定申告

仲介手数料には、宅地建物取引業法にもとづく報酬の上限が定められています。加えて2024年7月からは、価格800万円以下の低廉な空家等について、通常の上限を超えて報酬を受け取れる特例が拡充されました。従来も400万円以下を対象とする特例がありましたが、対象と上限が広がり、買主からも受け取れるようになっています。
取り扱いが敬遠されがちだった物件を動かしやすくするための改正ですが、売主から見れば手数料の負担が従来より増える場面でもあります。この特例で報酬を受け取る場合、媒介契約の前に金額を説明して合意を得ることが求められているため、提示された金額の根拠を確かめてから進められます。

空き家の売却で見落とされやすいのが、建物に残された家財の処分費用です。長く暮らした家ほど残置物は多く、押し入れや物置を開けてみて初めて量が分かることも珍しくありません。想定を超える出費になりやすい費目です。
さらに、境界が曖昧な土地では、測量や境界の確定を求められるのが一般的です。隣地の所有者との立ち会いが要るため、日程の調整だけで数か月かかるケースも少なくありません。買主側から売却の前提として求められることがあるため、古い土地では早めに図面の有無を確かめておくと、日程に余裕が生まれます。

税がかかるのは、売れた金額そのものではありません。3,000万円で売れたとして、その3,000万円に課税されるわけではなく、売却価格から、その家を手に入れたときの金額と売るためにかかった費用を差し引いて、なお利益が残ったときにだけ税が生じます。計算の骨格は、次の二段構えです。

譲渡価額は売却価格、取得費には購入時の代金や仲介手数料、譲渡費用には売却時の仲介手数料や印紙税が入ります。見落とされやすいのが特別控除額の位置です。次の節で扱う空き家の特例は、税率を掛ける前の段階で差し引かれます。
その税率は所有期間で変わります。譲渡した年の1月1日の時点で所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得、5年以下であれば短期譲渡所得です。

区分 所有期間(譲渡した年の1月1日時点) 所得税 住民税 合計
長期譲渡所得 5年超 15% 5% 20%
短期譲渡所得 5年以下 30% 9% 39%

※上記のほか、2013年(平成25年)から2037年(令和19年)までの各年分は、復興特別所得税として所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付します。

 出典:国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算

基準日が売却日ではない点には注意が必要です。相続した不動産では所有期間を被相続人が取得した日から数えるため、親が長く住んでいた家であれば長期に該当する場合が多くなります。

相続した空き家を売る場合、要件を満たせば譲渡所得から3,000万円までを控除できる特例が用意されています。ただし2024年1月以後の譲渡では、家屋と敷地を相続で取得した相続人が3人以上いる場合、控除額は1人あたり2,000万円までとなります。まず、次の項目に当てはまるかを確かめてみてください。
・昭和56年5月31日以前に建てられた家屋か
・区分所有建物の登記がされていないか
・相続開始の直前に、被相続人以外に住んでいた人がいないか
・相続開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売るか
・売却代金が1億円以下か
・譲渡が令和9年(2027年)12月31日までに収まるか
・相続のときから譲渡のときまで、事業・貸付け・居住の用に供していないか
・譲渡のときに一定の耐震基準を満たすか、または家屋を取り壊して売るか
・取得費加算など、他の特例の適用を受けていないか
・親子や夫婦など、特別の関係がある人への譲渡でないか

一つでも当てはまらない項目があれば、この特例は使えません。逆に、すべてに当てはまりそうであれば、相談の場で「この特例を前提に進めたい」と切り出せます。なお要件はほかにもあるため、詳細は国税庁のサイトでご確認ください。
出典:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

その取得費は、相続したときの評価額ではなく、親が買ったときの金額を引き継ぎます。古い家では契約書が見つからないことも多く、取得費が分からない場合は売った金額の5パーセント相当額とする扱いが認められています。ただしこれでは取得費が小さくなり、譲渡所得が膨らみがちです。売値が親の買値を下回っていても、税がかからないとは限りません。
契約書が残っていないか、早めに探す価値があります。相続税を納めた方には、その一部を取得費に加算できる特例もありますが、空き家の3,000万円特別控除とは、どちらか一方を選ぶ関係です。空き家の特例の適用には、確定申告と、被相続人居住用家屋等確認書などの事前準備も必要です。

査定額が高いことと、手元に残る金額が多いことは、同じではありません。解体費用を売主が負担するのか、特例が使えるのか、残置物がどれだけあるのか——同じ査定額でも、これらの条件が違えば手取りは動きます。
たとえば査定額が少し低くても、古家付きのまま売って解体費用を負担せず、特例が使えるのであれば、手取りでは上回ることがあります。比べるべきは提示された金額ではなく、そこから諸費用と税を差し引いた後の数字です。複数社の査定を並べるときも、この形にそろえてから比べると、判断がぶれにくくなります。

空き家売却で迷いやすいのが、建物を壊すかどうかの判断です。この判断は、解体費用をどう負担するか、税制上どう扱われるか、いつ壊すか、という3点に分解できます。

解体費用は、建物の規模や構造、立地によって幅が出ます。木造か鉄骨かで単価が変わり、重機が入れない狭い道路に面していれば人手が増え、その分だけ費用は上振れします。屋内に家財が残っていれば、その処分費も別に積み上がります。金額を知るには、複数の解体業者から見積もりを取るのが確実です。
あわせて確かめておきたいのが、自治体の補助制度です。老朽化した空き家の除却に補助を設けている自治体もあり、着工前の申請を条件としている場合が多く見られます。壊してから知っても間に合わないため、物件の所在地の窓口に先に問い合わせておくと、取れる選択肢が広がります。

先に見たとおり、住宅用地特例は土地の上に住宅が建っていることを前提とした軽減です。つまり、解体すれば軽減の対象から外れます。
固定資産税の賦課期日は、その年度の初日が属する年の1月1日です。1月2日以降に壊した場合、その年度の課税には影響せず、翌年度から扱いが変わります。売れる見込みが立たないうちに更地にしてしまうと、税負担が上がった状態で売却期間が延びていくことも。なお、住宅を建て替える予定があるなど一定の条件を満たす場合には軽減が続く扱いもあるため、所在地の自治体に確かめておくと安心です。

かつては、空き家の3,000万円特別控除を使うために、売主が引き渡しまでに耐震性を確保するか、解体を終えておく形が求められていました。解体費用を先に出せるかどうかが、特例を使えるかどうかを左右していたわけです。
これを変えたのが令和5年度税制改正です。2024年(令和6年)1月1日以後の譲渡については、買主が譲渡の翌年2月15日までに解体または耐震改修を行った場合にも、適用の対象に含まれるよう要件が広がりました。売主が費用を先に負担しなくても特例を狙える余地が生まれたという点で、解体の判断に直接効いてきます。売買契約にその旨の特約を入れる形が想定されます。

ここまでの材料を、一枚の流れに落とし込みました。上から順にたどれば、ご自身の物件に向く方法の仮説が立てられます。

このマップで出るのは、あくまで仮説です。特例の適用可否は要件を一つずつ確認して初めて決まりますし、解体費用も見積もりを取るまで分かりません。ただ、仮説を持って相談に臨めるかどうかで、専門家から引き出せる情報の密度は変わってきます。

空き家の売却は、査定から始まるわけではありません。売り出す前にやっておくことがあり、そこに時間がかかります。手順を並べたうえで、特例の期限から逆算する考え方を示します。

亡くなった方の名義のままでは、不動産を売却できません。買主に所有権を移すには、その前に相続人へ名義を移しておく手続きが求められます。
相続登記は2024年4月から義務となり、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請することとされました。正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料の対象となります。手続きは、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍など、集めるのに時間がかかる書類がそろって初めて進みます。売却を考え始めたら、ここから着手すると流れが滞りにくくなります。

相続人が複数いる場合、不動産の売却には全員の合意が求められます。兄弟姉妹が遠方に散っていたり、売るか残すかで考えが食い違ったりすると、ここで足踏みしがちです。
話が進みにくいのは、判断材料が共有されていないときです。「なぜ今なのか」を、放置した場合の年間コストや特例の期限といった数字で示せると、感情の対立になりにくくなるでしょう。誰かが実家に思い入れを残している場合も、数字を挟むと話の土俵がそろいます。話がまとまったら、その内容は遺産分割協議書として書面に残し、全員が署名押印しておくと、その後の登記や売買の場面でそのまま使えます。

名義と合意が整ったら、ここから先は一般の不動産売却と大きくは変わりません。
・査定を受ける(現在地の把握)
・媒介契約を結ぶ(買取の場合は不要)
・売却活動(広告・内覧の対応)
・買付の申し込みを受け、条件を交渉する
・売買契約を結ぶ(手付金の受領・印紙税)
・残置物の撤去、必要に応じて解体や測量
・決済と引き渡し(残代金の受領・抵当権抹消・所有権移転)
・売った年の翌年に確定申告(特例を使う場合は書類を添付)

買取を選んだ場合、売却活動の期間が省かれるため、査定から決済までが短くなります。仲介であれば、売り出してから買主が決まるまでの期間は物件によって幅があり、数か月かかると見込んでおくと計画が立てやすくなります。

「相続から3年」とよく言われますが、この3年は一つではありません。一方は空き家の3,000万円特別控除の期限で、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることが要件です。加えて特例そのものにも令和9年(2027年)12月31日までという適用期限があります。売却の締切になるのはこの2つで、先に来るほうが実質的な期限です。
もう一方の相続登記は、不動産の取得を知った日から3年以内の申請です。こちらは登記の義務であって、売却の締切ではありません。起算点も守る対象も違うため、分けて数えると混乱せずにすみます。準備に数か月かかると見れば、逆算して動き出す形になります。

すべての空き家がすんなり売れるわけではありません。売れにくい条件を先に知っておくことは、悲観のためではなく、打つ手を早く選ぶためです。難しくなる典型と、それでも取り得る手段を並べます。

建築基準法では、建物を建てる敷地は、原則として幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接していることが求められます。しかし古い住宅地には、この条件を満たさないまま建っている家が少なくありません。
接道の条件を満たさない土地では、いま建っている家を壊すと、新しく建て直せない場合があります。買主にとっては使い道が限られるため、検討する層は狭くなってしまいます。こうした土地では、解体という判断そのものを慎重に行わなければなりません。更地にした瞬間に、建てられない土地になってしまうためです。認定や許可を受けられる例外もあるため、まず現況を確かめるところから始めましょう。

人口が減り、住宅を買う人が少ない地域では、価格を下げても買主が現れないことがあります。周辺の成約事例が乏しければ、査定額そのものを出しにくいことも。そうなると、仲介で売り出しても、反応がないまま時間だけが過ぎていってしまいかねません。
この現実を早めに知ることには、意味があります。反応を待ち続けるより、隣地への打診や自治体の制度など、別の道に時間を振り向けられるからです。売り出しの期間が延びるほど、放置しているのと変わらない費用が積み上がっていきます。売れない可能性を先に見ておくことは、あきらめではなく、打つ手を早く選ぶための準備といえるのです。

市場で買主が見つからなくても、道が閉じたわけではありません。取り得る手段は、いくつか残されています。
・隣地の所有者への打診(隣に住む方にとっては、庭や駐車場として価値のある土地かもしれません)
・自治体の空き家バンクへの登録(移住希望者との接点が生まれる場合があります)
・相続土地国庫帰属制度(土地を国に引き取ってもらう制度)
・相続放棄(相続そのものを放棄する)

相続土地国庫帰属制度は、建物がある土地では申請できないため、使うのであれば解体が前提になる点には注意が必要です。審査手数料のほか、承認された場合には管理費用に相当する負担金の納付も求められます。相続放棄には、相続の開始を知ったときから3か月という期限があり、預貯金など他の財産も一緒に手放さなければなりません。空き家だけを切り離して放棄することはできない仕組みです。いずれも条件が細かいため、弁護士や司法書士に確かめながら進めることが大切です。

「買取なら必ず売れる」と受け取られがちですが、そうとは限りません。買取の可否は法令で一律に決まっているわけではなく、各社が再販の見通しを立てられるかどうかで判断しています。再建築ができない土地、需要が見込みにくい立地、権利関係が整理されていない物件は、引き受けが難しい場合があります。
買取が難しい場合でも、仲介や別の手段は考えられるため、まずは相談してみることが大切です。


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売り方も費用も期限も見たうえで、それでも売ると決めきれないことがあります。空き家の行き先は、売却だけではないからです。この章では5つの道を並べ、放置を「選ばないこと」ではなく一つの選択として捉え直したうえで、親の家を手放すことへの後ろめたさに触れます。

空き家の行き先は、売却だけではありません。売る、貸す、駐車場などに活用する、管理しながら持ち続ける、制度を使って手放す——大きく分けると、この5つに整理できます。どれが合うかは、立地や建物の状態、そしてご自身がその家とどう関わりたいかで変わります。

向きやすいケース 気をつけたい点
売る 使う予定がなく、管理の負担を手放したい 売り方や時期の設計が要る
貸す 賃貸の需要があるエリアで、建物に人が住める 修繕費と管理の手間が続く
活用する 建物の価値は薄いが、土地の立地に需要がある 初期投資と収支の見通しが要る
管理し続ける 将来住む見込みがある/手放す決断がつかない 費用と責任を負い続ける
制度で手放す 買主が見つからず、活用の見込みも薄い 要件が細かく、費用もかかる
賃貸の需要がある地域なら貸すほうが収支に合う場合もありますし、将来お子さんが住む見込みが残っているなら、持ち続ける判断もあり得ます。

何もしなければ費用も手間もかからない——空き家を前にして、一度はそう考える方が少なくありません。ただ、放置している間も固定資産税は毎年かかり、建物は傷み、法律上の管理責任は所有者に残り続けます。
放置は「選択しないこと」ではなく、維持のための費用を払い続けながらリスクを積み上げていく、一つの積極的な選択と言い換えられます。しかも建物の傷みが進むほど買い手は限られ、売るという道そのものが細っていきます。傷みが進むほど、売り方の選択肢も狭まっていきます。空き家に関して、時間は味方になりにくい要素です。

親が遺した家を売ると考えたときに、うまく言葉にできない後ろめたさを覚える方は少なくありません。育った家の記憶と、売却という行為が、どうしても結びつかない。
けれど、傷んでいく家を放置することと、調べて筋を通したうえで手放すことと、家を大切にしているのはどちらだろうか——そう置き換えてみることもできます。後ろめたさは、その家に向き合う責任を感じている証しとして受け取り直せます。感情を切り離さないまま、判断を進めて構いません。

ここからは、家族への説明と専門家への質問を、どう組み立てればよいのかを考えていきます。

「なぜ売るのか」「なぜ今なのか」「なぜこの方法なのか」——この3つに根拠がついていれば、話し合いは進みやすくなります。逆にどれかが空いていると、そこを突かれて議論が止まってしまいます。
根拠になるのは、感情ではなく数字です。放置した場合の年間コスト、特例の期限、売り方ごとの手取りの比較といった材料が、そのまま説明の資料になります。「早く決めよう」と急かすより、同じ資料を見てもらうほうが、結論にたどり着くのは早くなるでしょう。

相談の質は、こちらが投げる問いで決まります。場面ごとに、聞く内容を先に決めておくと、限られた時間で引き出せる情報が増えます。
・その査定額の根拠になった成約事例を見せてもらえますか
・古家付きのまま売る場合と更地にする場合で、手取りはどう変わりますか
・この地域では、売り出してから決まるまでどのくらいかかっていますか
・買取だといくらになり、仲介との差はどこから出ていますか
・うちのケースで空き家の特別控除は使えますか。使えないとすれば、どの要件でしょうか
・取得費が分からない場合、税額はどのくらい変わりますか
・取得費加算の特例と、どちらが有利になりそうですか

「いくらで売れますか」と聞けば金額は返ってきますが、その根拠までは返ってきません。根拠を尋ねる問いに変えるだけで、相手が示す情報の量は変わります。

査定を頼んだら売却を迫られるのではないか——そう身構えて、相談を先送りにする方は少なくありません。けれど査定は、その家がいま市場でどのくらいの価値を持つのかを知るための情報であって、売る約束が生まれるわけではありません。
現在地が分かれば、放置した場合のコストと比べられますし、兄弟姉妹に示す材料にもなります。売らないという結論に落ち着く場合でも、その判断は数字に裏づけられたものになるでしょう。迷っている段階でこそ、確かめておく意味があるのです。


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ここからは、空き家の売却でよく寄せられる質問とその回答を紹介します。

物件の条件によって変わります。更地は土地の使い道が伝わりやすい一方、解体費用の負担と、住宅用地特例が外れることによる税負担が生じるためです。古家付きのまま売り、買主の解体を前提とした特約で特例を使う道もあります。まずは、両方の手取りを並べてから判断するのがおすすめです。

遠方でも売却は進められます。書類のやり取りは郵送でき、契約の場に立ち会えない場合は委任状で対応できることも。現地の状況を確認できる不動産会社と組めるかどうかが、進めやすさを左右します。残置物の片付けや解体の手配も、任せられる範囲を先に確かめておくと動きやすくなります。

実務の窓口は代表者を立てて進めるのが一般的ですが、売却そのものには共有者全員の合意が求められます。代表者だけで契約を結ぶことはできません。誰が窓口を担うかと、誰が決めるかは別の話です。早い段階で方針を共有し、遺産分割協議書などの書面で合意を残しておくと、後の行き違いを防げます。

片付ける前のご相談で構いません。残置物の量は費用の見積もりに関わる情報なので、そのままの状態を見てもらうほうが、正確な見通しが立ちます。遠方から通って片付けてから、と考えていると、そのまま時間が過ぎてしまいがちです。処分の方法や費用の目安、業者に任せられる範囲も、あわせて確認するのがおすすめです。

空き家をどうするかは、税額の多寡だけで決まる話ではありません。放置している間も税と管理の負担は積み上がり、建物が傷むほど選べる売り方は細っていきます。売り方を選び、解体するかを決め、特例と期限を確かめる——この順に材料をそろえると、手取りで比べられるようになります。
親の家を手放すことは、その家を軽んじることではありません。傷むまま置いておくより、けじめをつけて次の世代に重荷を渡さないほうが、家にも家族にも誠実な場合があります。どの道が向くかは、物件の条件と、手取りと期間のどちらを優先するかで変わります。その土台になるのが、いまの価値を知ることです。迷っている段階からでもご相談いただけます。
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